2023年11月30日、ハードウェアウォレット大手のLedgerがDYDXトークンのステーキングを開始した。
dYdXは世界最大級の分散型取引所(DEX)であり、10月末にイーサリアムからコスモスに引っ越しをしたばかりのプロジェクトだ。コスモスSDKという技術ツールを使って、独自チェーンのdYdXチェーンをローンチした。そして、コスモス系のチェーンはPoS(プルーフオブステーク)というコンセンサスメカニズムを採用しているため、dYdXチェーンでステーキングが開始した。
Ledgerは今回、dYdXチェーンのステーキングをサポートした形になる。
コスモス系のチェーンにおけるステーキングは、実は奥が深い。
この記事では、ざっくり以下の流れで解説する。
・dYdXチェーンについて
・DYDXやATOM、OSMOなどコスモス系のチェーンのステーキングについて
・コスモスのバリデーターが「代議員」と呼ばれる理由
ステーキングに関してまず基礎的なことを知りたい方は、先に以前の記事を読むことをオススメする。
dYdXチェーンとは?
そもそもdYdXチェーンは、「完全な分散化」と「充実したトレード体験」を実現する目的で立ち上げられた経緯がある。
立ち上げ前のdYdXは、ハイブリッド型取引所だった。
メタマスクなどのウォレットを使用してユーザーが資産を管理するという点で「分散型」だったが、オーダーブック(取引板)とマッチングエンジンはニューヨークに拠点を置くdYdXトレーディング社によって運営されていたという点では「中央集権型」だった。
それが、dYdXチェーンを導入したことにより、取引板の管理が一社に依存する必要がなくなった。
世界中のバリデーター(ノードと呼ばれるコンピュータ)がネットワークを支え、互いにチェックしあいながら取引板を管理するからだ。
すべてのバリデーターが取引記録を持ち、共有し、買い注文と売り注文がマッチングした際にオンチェーンに記録されることになる。これにより、dYdXチェーンは「完全な分散化」を達成した。
分散化とスケーラビリティとは、両立させたくてもしばしば対立しがちな概念である。
dYdXトレーディング社は、イーサリアム以外のレイヤー1と最近のレイヤー2を研究し、両立できるチェーンを探していた。最終的に、既存のチェーンでこれを実現できなかったため、自社でチェーンを作成することにになった。これがコスモスSDKを使った独自チェーンであるdYdXチェーン誕生の背景だ。現在、dYdXチェーンは最大で1秒間に2000回の取引(TPS)を処理が可能となっている。
dYdXチェーン移行前、1日の取引量は平均で10億ドルにのぼっている。(この金額は、日本の取引所の全ての取引量の合計よりも大きい。)
コスモスのステーキング
続いて、dYdXチェーンを通してコスモスのステーキングについて解説する。
細かいパラメータは異なるものの、コスモス系のチェーンはどれも同じ仕組みだ。
dYdXチェーンでは、DYDXトークンをバリデーターに預けることで、ステーキングを実施できる。ステーキングはネットワークセキュリティの強化に貢献し、報酬を受け取る手段だ。ステーキングを行う人は「ステーカー」あるいは「デリゲーター」と呼ばれる。
バリデーターはブロックチェーンのブロックを提案し、承認されることでブロック報酬を受け取る。dYdXチェーンでは、USDC建てのトレード手数料が報酬の原資となる。ブロック報酬はバリデーターだけでなく、彼らにトークンを預けるステーカーにも分配される。
現在、dYdXチェーンには、
・60のアクティブなバリデーター
・85のインアクティブなバリデーター
が存在する。
ステーカーは、アクティブなバリデーターにステーキングをしないと報酬を得ることができない。ATOMの場合、アクティブなバリデーターは180だ。バリデーター数の増減はガバナンス投票によって変更が可能だ。
(出典:Mintscan「dYdXチェーンのバリデーターのランキングトップ5」)
どのバリデーターを選べば良いのか?
実際にステーキングするとして、関心は「どのバリデーターを選べば良いか?」という点だろう。
ランキング
ランキングの高いバリデーターにステーキングすれば良いかというと、そう単純な話ではない。バリデーターが、何らかのミスをして罰(「スラッシング」という。)を受ける可能性があるからだ。
事実、先日dYdXチェーンのバリデーターランキングでトップ5に入っていたFlashCatが二重サインという重い罪を犯して「tombstoned(お墓行き)」となった。FlashCatへのステークは無効となり、場合によっては没収される可能性がある。
コミッション料
次に考慮すべき点として、コミッション料が上げられる。
上記の画像にCommと書かれている欄があり、ここでコミッション料が確認できる。
ステーキング報酬はまずバリデーターに分配されたのちコミッション料分を抜いてステーカーに渡ることになっている。つまり、コミッション料が高ければ高いほどバリデーターが中抜きする額が大きい。画像ではコミッション料が「100%」のバリデーターがあるが、ここにステーキングをしたら報酬はゼロだ。
Participation
そして、次に注目してもらいたいのが、画像のParticipationの欄だ。
これはdYdXチェーンでの投票にどのくらいの割合で参加したかを示している。
つまり、そのバリデーターがdYdXチェーンにコミットしているか、貢献する気があるのかどうかを図る指標と言って良い。
コスモス系のチェーンは、基本的にはトークン保有者が直接ガバナンスに参加するのではなく、バリデーターが代わりに投票する。バリデーターにステーキングされた量は、即ち投票力となる。
面白いのは、トークン保有者がバリデーターの投票を覆す権利を持っている点だ。
仮に自分のバリデーターの投票先が気に入らなければ投票先を変えられるのだ。この意味で、トークン保有者は「有権者」、バリデーターが「代議員」と言える。
安全な資産管理
上記に加えて重要であるが見落としがちな点は、DYDXトークンを安全にステーキングすることだろう。
コスモス系のウォレットはKeplrが有名で信頼が厚いが、ソフトウェアウォレットであることに変わりはなくセキュリティ面にリスクを抱えている。
安全にステーキングするためには、ハードウェアウォレットであるLedgerを使ってステーキングをすることが現状最も安全な手法であり、かつ理に適った方法でもあることは以前の記事で解説したとおりだ。
ぜひこの点は抑えておいてほしい。
LedgerがDYDXのステーキングを開始
Ledgerは、dYdXチェーンのサポートとDYDXトークンのステーキングを開始した。
つまり、一般ユーザーは「Ledger Live」を通じてハードウェアウォレットから直接DYDXをステーキングをすることが可能となったのだ。
Ledgerのバリデーター名は、「Ledger by Meria」だ。
Meriaは、フランスでインフルエンサー業などを営む会社の名称であり、ランキングは執筆時点では21位で十分にアクティブなセットに入っている。
(出典:Mintscan「dYdXチェーン Ledgerのランキング」)
LedgerでDYDXにステーキングに興味がある人は、安価なLedger Nano S Plusの使用をオススメする。非常に安全かつカンタンにステーキングを体験することができるため驚くだろう。
ステーキングとは、政治家を選ぶ行為?
バリデーターにとって、ガバナンスへの参加率が重要な指標であることは先ほど述べた。
ガバナンス投票に参加することは、バリデーターにとって重要な役割の1つだ。
しかし、単に投票するだけでは代議員としての役割を果たしていることにはならない。
それぞれのバリデーターの思想や真剣度、何より「そのチェーンに対して貢献する気があるのか、それとも自分達の利益優先なのか」を見極めることが重要なポイントになる。
先月、Cosmos Hub(ATOM)において、ガバナンス参加者を真っ二つに割る投票があった。
面白い事例なので紹介しておく。
提案は「ATOMのインフレ率を削減する」というものだった。
これに対してコミュニティの意見は真っ二つに割れた。
・「高いインフレ率はATOMの価値を下げる」
・「低いインフレ率はステーカー/バリデーターが享受するAPRを下げることになる」
といった主張で双方譲らず、最後までコミュニティ内は紛糾した。
これはつまり、
・「長期的にコミュニティ全体の発展を重視する派」か、
・「短期的に自分の利益を重視する派か」
の主張の攻防であったように思う。
結局は、賛成票が僅差で反対票を上回り結着した。
少しテクニカルな話かもしれないが、どのバリデーターが、
・ATOM全体の価値向上のために行動しているのか?
・短期での自分の利益を重視しているのか?
ということが推し量れる結果になったと言える。
(出典:Mintscan プロポーザル#848の投票結果 結果は、YES票41.1%、NO票31.9%、拒否権6.6%、棄権20.4%だった。)
上記の提案を通して、「これだからATOMのガバナンスはやめられない、米大統領選よりも楽しい」という声も出たほどだった。
「プロジェクトに対する自分の思いを一番代弁してくれるバリデーターはどこか?」
今後、コスモス系のチェーンにおけるステーキング先を探す上で重要な視点になるだろう。
バリデーターの活動を念頭に置いた「右翼と左翼」という思想的な対立が生まれる日も、いずれ来るだろう。
まとめ
Ledgerが先週、dYdXチェーンのステーキングサポートを開始した。
dYdXはイーサリアムからコスモスへ移行した大規模な分散型取引所(DEX)で、コスモスSDKを用いたPoS(プルーフ・オブ・ステーク)コンセンサスメカニズムが採用されている。このプラットフォームは、完全な分散化と高いトレード体験を提供するために設計されている。dYdXチェーンでは、世界中のバリデーターがネットワークを支え、取引板の管理が中央集権から分散化へと移行した。
ステーキングでは、DYDXトークンをバリデーターに預けることで、ネットワークのセキュリティ強化に寄与し、報酬を得ることが可能である。バリデーター選択においては、スラッシングリスクやコミッション料、ガバナンス投票への参加率を考慮する必要がある。コスモス系のチェーンにおいて、ステーキング先の選択はそのチェーンへの投資と見なされるため、バリデーター選択はプロジェクトへの信頼と貢献度を示す。
Ledgerのサポートにより、ユーザーはLedger Liveを通じてDYDXを直接ステーキングできるようになった。これにより、セキュリティと利便性が向上することが期待できる。Ledgerのバリデーター「Ledger by Meria」は、フランスのインフルエンサー業を営むMeriaが運営しており、信頼性とアクティビティが高いと評価されている。
コスモス系チェーンにおけるガバナンスの動向はステーキングと密接に関連しており、トークン保有者はバリデーターを通じて間接的にガバナンスに参加する。バリデーター選択はプロジェクトへの貢献意志や思想を反映する重要な要素である。
本記事の作成には、Ledger日本マーケット担当の大木悠も貢献しました。