海外のガチDAOで日本人が貢献するために必要なこと ~英語力だけでは足りない実状~

  • 2023/11/28 16:38
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世界のDAO(自律分散型組織)に日本人の参加者が少ないと言われて久しい。
この理由について本稿では、論文と議論を通じた欧米教育と日本の教育の違いにあると考察する。
英語力を高めることも大事だが、欧米教育における「貢献」の文化を理解することも大事であることを解説する。

まずはDAOの定義から

DAOの定義が幅広い日本においてDAOとは何かを一言で効果的に語るのは難しく、その点に関しては別の機会に試みたいのだが、ここでは最低限、
①インターネットを通じて誰もが参加可能で英語で議論・提案がされている点
②既存の企業や自治体など既存コミュニティが母体となっていない点
のみを押さえたい。

例えば、ビットコインやイーサリアムに、何か母体となるコミュニティがあるだろうか?
答えは当然NOだ。
DAOとは既存の世界の進化ではなく新しい世界を生み出す革命なのだ。
どこにも母体がないのになぜ人が集まるのだろうか?
インターネットのおかげだ。
知らない人同士なのになぜ金銭的なやり取りが成立するのだろうか?
ブロックチェーンのおかげだ。
具体的にはイーサリアム系のAaveやOptimism・Arbitrum・コスモス系のATOMなどのDAOを思い浮かべていただけたら良いだろう。

先週末、ATOMで揉めに揉めたインフレ率削減案が可決した。

詳しくは別の機会に話すが、DAOとは政治でありドラマであり(好きか嫌いかは別として)エンターテイメントの要素があることを改めて認識せざるを得ない投票だった。
今回のATOMの件に関しては「大統領選より面白い」という声も聞かれている。

ちなみに、「革命」であるため、米国ではDAOという言葉を積極的なブランディングとして使いたがらない人が多いと聞く。
当たり前だろう。
本来ならば、既存勢力に喧嘩を売るような話だからだ。

体制側であるはずの企業や自治体が積極的にDAOを語る日本は、そういう意味で特殊だ。
筆者は、その特殊な日本のDAOが何らかの方法で独自の発展を遂げて何物かになることを否定しない。(詳しくは、dYdX Japan Communityのブログを拝読いただきたい。)

さて、話を戻そう。
DAOに日本人の参加者が少ないという話をよく聞く。
その理由として、おそらく多くの人が思い浮かべるのは「英語力」だろう。
確かに未だに若者であっても英語を苦手としている日本人は多い。
しかし、私は英語を勉強すれば日本人のDAO参加者が増えるという単純な話ではなく、教育や文化というもっと根深いところに問題の本質があるとみている。

海外教育で私がぶち当たった壁

What is your contribution?(あなたの貢献は何か?)
筆者には幸運にも欧州の大学院で勉強する機会があった。私は論文を読んで論文を書くことのみに数年間の月日を費やした。その時よく教授に言われたのが、先述の”What is your contribution?” つまり、あなたの貢献は何か?だ。

どういうことか?
詰め込み型の日本の教育とは対照的な欧州の大学院では、いわゆる講義が少ない。
教授による一方的なレクチャーはあまりないのだ。
私が通った大学院では、毎回の授業で論文が2、3指定されて、授業は「どう思う?」という教授の問いから始まった。
開口一番いきなり「どう思う?」と聞かれても困るだろう。「むしろ教授の方が背景を説明してくれよ」と私は思った。私はこの教育スタイルに慣れず、1年間はほぼ何も発言できずにサイレントだった。

ここで必要なのは、
①論文を理解すること
②論文に基づいて何か建設的なことを言うこと
だ。
①は①でかなり難易度が高いのだが、専門性の問題でもあるし、ここでは深く立ち入らないことにする。

②の「建設的なことを言う」とは何だろうか?
哲学的な問いになってきたように聞こえるかもしれないが、端的に言うと、論文の筆者が所属している学派で長年行われてきた議論を一歩でも(本当に数ミリでもいいかもしれない)前に進めることを言うことだ。論文の中身をおうむ返しのように発言しても半分しか点数はもらえない。
私は一度、論文の中身をそのまま読んでしまうという失態をしたのだが、英国人のクラスメートにあくびされたのを覚えている。
また、「分かりやすく言い直しました」も感謝こそされても、スタープレイヤーにはなれない。いわゆるオリジナリティが大事なのだ。

しかし難しいのは、オリジナリティがあれば何でも良いというわけでもないことだ。
経済史で言うと、みんな間接的にはアダム・スミスに影響されているし、カール・マルクスに影響されている。
これまでの文脈(Context)をぶち壊さない形でオリジナリティを発揮しなければならない。私の指導教官の一人は「経済学とは会話である」と言い切っていた。
オリジナリティとは、これまでの全ての議論を犠牲にしない形で(最大限リスペクトを払って)、なるべく多くの点と点が線になるような形で、全体を前進させるような「新たな会話スポット」を見つけることだ。この点で、「貢献する」とは、個人プレーであると同時にチームプレーなのだ。

新たな会話スポットが大きければ大きいほど、あなたの貢献度は大きい。
「そのスポットをオープンにしてくれたから、おかげでこんなことも言えるよね、あんなことも言えるよね」と他の多くの研究者を巻き込めるようになるからだ。多くの人を巻き込める(すなわち仕事を作ってあげる)人は偉い。そんな人が、学会の権威になっていく。欧州では単なる物知りが権威になるわけではないのだ。

はっきり言おう。

オリジナリティを出すことは難しい。
私もそれが得意だったとは決して口が裂けても言えない。しかし大事なのは、欧米で大学教育を受けた人は、多かれ少なかれ上記で話したような「貢献」の意味を理解している。
一方、私は学部は日本の大学を出ているが(そしてそこそこ悪くない大学を出たが)、上記のようなことを教えてくれる人も実践してくれる人もいなかった。
日本のトップ水準の大学でこの程度のレベルなのだから、無理はないかもしれない。人文・社会科学の領域で、残念ながら世界的な権威となっている日本の大学の教授はほぼいないのだ。


DAOに貢献するということ

さて、お察しの通り、筆者はDAOにも欧米の貢献文化が色濃く出ていると考えている。
DAOで問われていることは、単に英語でだべるのではなくDAOの議論を前に進めることだ。
中にはゴミ意見もたくさんある。ゴミプロポーザルもたくさんある。長ったらしく文を書く割に周りの人が反応しないケースもある。
DAOで貢献するとは、個人プレーであるように見えてチームプレーなのだ。
過去の議論、他のプレイヤーの性格・嗜好を見極めなければならない。

何が、そのDAOにおいてバズる会話スポットなのか?

それを見極めた時、あなたはそのDAOの功労者になることは間違いないだろう。


ATOMやDYDXトークンなどのステーキングにはLedgerを利用する事を推奨しております。
下記関連記事もご参照ください。


大木 悠寄稿者|Japan Lead, dYdX Foundation

投稿者プロフィール

早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務。日本に帰国後、2018年6月にコインテレグラフジャパンの編集長に就任。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月より現職。Ledgerの日本マーケット展開のサポートもしている。

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