【即日解説】Web3の開発トレンドを知る~AlchemyのWeb3 Development Report (Q2 2023)を解説~
本記事では、Alchemyから発表されたレポートより、Web3の開発トレンドを解説します。
今、開発者達がどんな技術に注力しているのか。開発者にとってだけでなく、少し先のマーケットを予測する上で、事業者側にとっても有用な示唆を得られるレポートになっています。2023年第2四半期(4~6月)にフォーカスした内容です。
Alchemyは、Web3におけるDapps(分散型アプリケーション)の開発に必要なツール群をトータルで提供する、開発環境のプラットフォーマーと言える存在です。
引用文献:Web3 Development Report (Q2 2023)
Vitalikの提唱した3つの移行と開発者の反応
2023年6月、Ethereumの創設者であるVitalik Buterinは、「The Three Transitions」というビジョンを発表しました。これは、成熟した技術スタックとしてのEthereumの次のステップを示すもので、以下の3つのトピックを強調しています。
- L2のロールアップへの移行
- ウォレットのコントラクトウォレットへの移行
- プライバシー保護技術に対する再注目
開発者たちは彼の行動要請に迅速に反応しました。
例えば、L2であるArbitrum Oneは、2Qでユニークアドレスが950万に達し、前期比(1Qとの比較)で2倍以上に増加しました。
また、Polygonはアクティブなコントラクトウォレットが前期比で541%増加しました。
さらに、アクティブなコントラクトウォレット(Account Abstraction)のユーザは、前期比で27,360%増加しました。コントラクトウォレットの標準実装がERC-4337として提案された背景もありますが、目覚ましい増加率です。
※コントラクトウォレット:ユーザが秘密鍵を保持する従来のウォレットと異なる仕組みを持ち、
ブロックチェーン上のスマートコントラクトをウォレットのように使える技術。
実装方法によって、ユーザが秘密鍵を保持することが不要にできたり、ガス代負担なくトランザクションを実行することが可能になる。
急成長しているWeb3の事業領域
急成長しているWeb3の事業領域としては、以下のようなものがあります。
- データ分析ツール:ブロックチェーンデータを読み取り、保存し、インデックス化し、変換する
- セキュリティ監査:スマートコントラクトのセキュリティを監査する
- コントラクトウォレット
エンジニアが注目しているトピック
Alchemyが行った600人以上の開発者への調査によれば、以下のトピックが最も関心の高いものとなっています。
- スマートコントラクトのセキュリティ
- コントラクトウォレット(Account Abstraction)
- ZK-rollups
- AI
Vitalikの示したビジョンからの直接的な影響が伺えます。
一方で、ビジョンには無い「AI」が入ってきています。
イーサリアムと主要L2、サイドチェーンにおけるスマートコントラクト数の急速な増加
スマートコントラクト数は、Ethereumをはじめ、レイヤー2(L2)ブロックチェーンやサイドチェーンにおいて急速に成長しています。Ethereum、Arbitrum、Optimism、Polygonにおけるスマートコントラクトの数を合算した値は、
2022年第2四半期に比べて(前年同期比)1106%、
2023年第1四半期に比べて(前期比)302%の増加を見せました。
レイヤー2ブロックチェーンは、ユーザーに対してより安価なトランザクション手数料、高速なトランザクション性能を提供します。これらの特徴と、成熟したアプリケーションのエコシステム、そしてユーザーからの採用が増えていることが、L2スマートコントラクト展開の持続的な強さの一因となっています。
Astar Networkの開発者の増加
2023年第2四半期におけるAlchemy上で活動するAstar Networkの開発者チームは、2022年第2四半期に比べて175%増加しました。
アカウント抽象化の採用が急速に進む
アカウント抽象化(Account Abstraction)の採用は、2023年第2四半期に急速に進んでいます。ユーザーオペレーション(UserOps: ユーザからのトランザクション要望数)は前四半期に比べて118倍、ユーザー数は約270倍、Paymaster(ユーザーのガス代を肩代わりする主体がもつ資産)のボリュームは約51倍増加しました。
※アカウント抽象化(Account Abstraction)によって実現されることの一つが、コントラクトウォレットです。
2023年第2四半期は、アカウント抽象化が主要なテーマとなり、多くのインフラストラクチャプロバイダー、コントラクトウォレット、消費者向けアプリケーションが同時に市場に出てきました。このような爆発的な成長から、EthereumとL2でのアカウント抽象化のサポートへの強い要望が明らかになりました。
まとめ
Alchemyのレポートからは、暗号資産の冬相場と言われる今においても開発者の活動は急増し、アカウント抽象化の採用が急速に進んでいることが明らかになりました。これらのデータは、Web3のエコシステムが長期的な成長を続けていることを示しています。
オピニオン
暗号資産・NFTの売買のマーケットにおいてはアメリカのFTX事件を発端とした規制強化も相まって冬相場と言われますが、開発者にとっては技術の価値が毀損されたわけでもなく、順調に開発活動が活発になっていることが伺えるレポートでした。
特に、アカウント抽象化への注目度は高く、実際に開発されている数も急激な増加を見せています。
アカウント抽象化は、開発者視点で見ると技術的に面白いこともありますが、何より秘密鍵の保持不要、ガス代不要などの、「劇的なユーザ体験の向上」につながり得る技術だからこそ、注目を集めているのではと考えます。ユーザファーストで何が求められているかを追求し、抽出した課題に技術を当てていく。Web3にまつわる技術開発は、そんなフェーズが中心になってきていると感じます。